七十九踏み目 稲荷神社
| 稲荷神社
●所在地 |
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路地裏の怪談

たそがれどきは「誰ぞ彼」ということで、モノゴトの輪郭が茫っとなり、人間の分別もあやふやになる時間である。 別名「逢魔ヶ刻(おうまがとき)」ともいう。
福岡市中央区地行の細道を抜けると、この路地はさっき通ったぞ。あの角は見覚えがあるというように、足下がおぼつかなくなる。
大通りに面した区画には、大きなマンションが並んでいるけれど、一歩路地に入ると、昔ながらの軒のさほど高くない家並が続く。
黄昏時はとくに、家並の判別がつきにくく、ことさら不安になるのだが、そんなタイミングでお寺の垣根から墓標がニョキっと顔を出す。
この街に住んでいる方々には申し訳ないが、こんなシチュエーションなら街角から、あらぬ声が耳の中に響いてきても、きっと真に受けてしまうだろう。
なんて街のせいにしているけれど、要はボクが方向音痴なのだ。このときは、自転車だったが、同じところをグルグル回って、変な汗をかいた。
ただ、ボクが稲荷神社になかなかたどりつけないだけで、焦ってしまうのもちょっとは理由がある。
それは今から15年以上もマエのこと。ボクは、大学生だった。
地行には、母校の女子寮があって、同級生の何人かがそこに住んでいた。
夏の盛りだった。ある晩、飲み会が散会となって、地下鉄に乗ろうと歩いていると、女子寮の同級生と二人だけになった。地下道の階段を下りようとすると…。
「私、帰りたくないの」とうつむき加減にいうではないか。
ははーんと思いながらも、淡々とした口調でボクは「そう。どっかに行く?」なんていってしまうわけだ。
すると「海がみたいの」。
コト細かに書くほど、記憶が鮮明でないので展開ははしょるけれど、夜の浜辺でコーラ(ボクは下戸)を呑みながら、聞いた彼女の「帰りたくない理由」が「幽霊が出る」だった。
とある晩女子寮の中で、耳をつんざくような悲鳴が聞こえた。丑三つ時かどうかは定かではないが、そうだったということにしよう。
目覚めた女子たちが、何だなんだと声の方へ向かうと、ある女子が階段の踊り場で、腰を抜かしていた。
どうしたの? 駆け寄り理由を聞くとその女子。トイレだかの帰りに階段を上っていると、ある女性とすれ違った。髪が長かった。
「あれ、こんな娘いたっけ?」と声をかけようと振り向くと、スーッとその人影が消えたという。
その後、同じように女性の姿を見た、だとか、夜中に共同電話が鳴り、出てみると恨めしげなささやき声が聞こえたり、いつも同じ場所に置いてある何かがあり得ないような場所に移動していたり、と、もっと気味が悪いような話もあったと思うが、そんな怪異が広がっていった。
同級生の女子は、そういうものを見たり感じたりはしなかったが、寮の子たちの焦燥ぶりとか、集まってはそんな怖い話ばかりしている状況が気持ち悪い。地行には墓地も多くて、そんなところを通って女子寮に帰るのも気持ち悪い。ということだった。
結局、帰りたくないのではなく、帰りにくいだけなんだな、ということで、女子寮まで送って帰って、そのままトボトボとボクは終電で我が家に帰った。
それから実家に帰る子、友達の家にずっと泊まる子、女子寮がガランとしてしまうほどの騒動になった。

女子寮の混乱ぶりをみかねたのか、学校から牧師さんが派遣されることになった。
みんな「エクソシストね」と大いに期待したそうだが、やってきた牧師さんは学校でキリスト教学を教える教授さんだった。その瞬間、すごい落胆もしたが第一声もすごかった。
「キリスト教では、幽霊の存在を認めていません」
この発声の直後が混乱のピークだったそうで、涙ながらにどんだけ怖い思いをしたか」を訴える子、「ふざけんな」と息まいている子…。
騒然とする中「神さまがついてますよ。神さまが守ってくださいますよ」と繰り返して、逃げるように帰った。ウソでも「聖水」でもまいて帰れば、少しは沈静化しただろうに。
まじめな奉職者としては止む無し、の対応だったのかもしれないが、この場においては少し無責任だなぁ、と思う。
聖職者と呪術者は別物で、呪を放つような人がこの世に必要なわけを、何となく思い知らされた。
そのうちに夏休みがはじまり、後期が始まるときに戻ってきたときには、この騒動も沈静化していたらしい。
ちなみに、この話はホントにあったことであるが記憶が曖昧なところは、多少の脚色が入っているかもしれない。
こんな話を思い出すほど、たっぷり道に迷い、もう帰ろうかな、とあきらめかけたころに、電信柱に貼付けられた「弊」を発見した。
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